フリーワンライ109自主練 「真夜中の訪問者」






 かたり、と音がした。
 窓の方からだ。
 掌で目を覆っていた私はなるべく訝しく思っている風に見えるように注意を払いながら顔を上げて、ゆっくりと立ち上がった。尤も、部屋の中には私に目を向ける人間などいないのだけれど。
 静かなものだ。
 家人は別室で寝ているし、この書斎には内側から鍵を掛けている。昼間騒がしく鳴いていた蝉は皆消えてしまったのかと疑りたくなる程その存在感を消し去っていて、その代わり虫の声がりんりんと遠くから響いてくる。
 秋が近付いているということだろうか。
 いや、それは当たり前のことだ。
 夾竹桃のあしらわれたカレンダーを捲ってから数日経ったし、何より、窓の方から音がした。
 極めて硬質で、素っ気ない一音。
 知らない人が聞いたら、聞き間違いか、庭の木の実か何かが落ちて窓硝子にでも当たったのか、と勘違いするかもしれない。だが私の耳に入ってしまったのだから、それは別の意味を持つ音になってしまう。
 一歩二歩と窓に近付いていく。嗚呼、今夜は月が綺麗だ。真円ではないが、ぴかぴかと光って家人が趣味で作り上げた庭を照らしている。昼間とはまた違った趣で、青白く染め上げている。
 だから、音の正体がはっきりと見えてしまう。
 窓辺に立つまでもなかった。私の目にはそれが映っていた。
 何、と聞かれれば答えに窮してしまう。何故なら窓枠越しに見えるのは極めて非現実的なものであり、脈絡がなく、私がその存在を認めればすぐさま消えてしまいそうだ。
 だから認めたくない。

 しかし、これが見えてしまっているからこそ、ああ、私が彼女を殺してこの庭に埋めたのは四年前の今日だったなと、実感する。





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