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フリーワンライ90 「隠れ鬼の運命」




 ああ、小学生の頃にやったっけ、そんなの。あったよね色々。ただの鬼ごっこじゃなくて、氷鬼とか、色鬼?とか。で、何だっけ、隠れ鬼?鬼が隠れるんだっけ。逆に。
 「逆に、じゃないよ」
 ああ、隠れんぼして、見つかった後に鬼から逃げるやつ、か。何でそんなこと、この年齢になってやらなきゃいけないの。面倒だなあ。大体、私とあなたの二人なんでしょ。成り立つの?それ。
 「成り立つよ」
 私の視線は会話をしている相手から、チラシを配る女性へと移った。多分、充血して赤くなっている相手の目を平静な気持ちで見ていられたくなったのだ。そういうことにしておきたい。
 駅前の広場は高いビルに囲まれているので風が強い。ベンチに座って何十分経っただろう。電話で呼び出されて家から飛び出してきたが、今は厚手のコートを着てこなかったことを後悔している。
 空は高く、雲はなく、晴れ渡っているというのに。休日の昼間から、特別何をする訳でもなくベンチに腰掛けたまま喋っている二人。
 私たちは通行人の目には、恋人同士にでも映っているのだろうか。
 今日会ってから多分二人とも一度も笑っていないから、別れ話をしているとでも思われているかもしれない。
 で、何で隠れ鬼なの。
 「だって、似てるから」
 似ている?何が。
 「相手が自分から隠れてることを知ってて、それでも捜さなきゃいけなくて、見つけたら見つけたで、逃げられるじゃない。どれだけ嫌われれば済むのよっていう」
 私は何も言わずに立ち上がって相手の胸倉を掴んで、思い切り背中を反らしてから相手に頭を打ち当てた。こんなとき大抵の女性なら平手打ちをするのだろうけど、私の掌はあまり大きいほうではない。上手く相手の頬に当てられるかどうか自信がなかったのだ。
 手を離せば、相手は唸り声を上げて蹲った。そのまま再び啜り泣きを始めたので、また頭突きをしてやろうかとも思ったけど、あまり行動が過ぎると、先程からちらちらとこちらを見ているチラシ配りの女性に通報されてしまうかもしれない。警察のお世話になってしまうのは喜ばしくない。
 仕方ないので私はしゃがみこんで、相手の耳許に口を近付けた。
 じゃあ私が鬼ね。あなたが逃げ切れたら、付き合ってあげる。その女みたいな口調も直さなくていいよ。
 本当は男らしい人が好きなのだけれど。
 あまりに驚いたのだろう、私を見上げる相手は口を開けたまま呆けた顔をしていたが、暫くしてから我に返ったように私のズボンを掴んだ。
 「待って、逃げ切れたらって、いつまで?私が貴女から完全に逃げ切ったら、一緒になれないんじゃない」
 ちっ、気付いたか。
 舌打ちをしてそっぽを向く私に、また涙目になる相手。
 本当は相手の情けない顔が見たくて、こんな類いのやりとりを何度も何度も繰り返してきたのだ。
 やっぱり、私が逃げ続けるしかないかな。





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