夢日記01「ピロートーク」

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 つい今しがた一番良い瞬間を得たばかりだったのに、気が付けば家路を辿っていた。駅から自宅への道だ。いつもならば仕事を終えてから通るので、日もとっぷり暮れていて街灯の光が等間隔に並んでいる光景を見慣れているが、現在は昼のようだった。
 薄曇りの空だ。
 今日は休日だっただろうか。
 いや、そうなのだろう。
 現にこうやって大きな買い物袋を提げている。
 隣を歩く彼女もビニール袋を左右の手に一つずつ持っている。今日は月に二度の買い出しの日だ。新居に入るとき、二人でそう取り決めたのだった。
 どれか持とうか、と声を掛けようとして、自分のほうが大きくて重い物を持っていることに気が付いて苦笑する。先程店を出た際、全部持とうとして先に歩いていたものの彼女に二つ奪われたのだった。
 と、納得しかけていたところに「イヤ違う」と声がかかった。
 そうだ、知っている。
 先程などなかった。スーパーで買い物などしなかった。
 隣を歩いている彼女は、現実では隣に寝ている彼女なのだ。
「これも一種のピロートークってやつなのか」
 そう口に出して聞いてみると、彼女は微笑んで頷いた。
 ああ、そうか。
 彼女も自分と同じ場所で、同じ夢を見ているのだ。
「ああ、おむつ、買い忘れちゃったね」
 穏やかに彼女が言った。まるで幸福をじわじわと噛み締めているかのような声調だ。
 そうか。
 もう子どもは産まれていたのか。
 今日は保育園にでも預けているのだったか。いや、二人共休みの日なのだから、どちらかが家で面倒を見ることは出来る筈だろう。
 となると今は産まれる前。
 いや。
 彼女は妊婦には見えないし、初期段階だとしても、ここまで早くから購入する意図が分からない。
 そもそも俺のでは子どもは出来ない筈では。
 そこまで考えたところでぱちんと何かが弾ける音がして、目の前が真っ白になった。手に持っていた袋も全て消えている。
 目が覚めたら隣に彼女は居ないのではないかと、言いようのない不安に襲われた。